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NOTE
ええと… 2008/03/07

あまりにも長い放置だったのですが、リハビリ兼ねて一応完結させてみました。
って続きがありそうな終わり方ですが(泣)
ホワイトデーにも何か出来たらいいなあ…。

お勉強・3 2008/03/07

門脇の言葉は瑞垣が飲み込んだそれだった。
自分が腹の底に秘めてきたものを言い当てられたような感覚に、瑞垣の心の内に、怒りにも似た感情が沸き上がる。
門脇はじっと瑞垣の瞳を見詰めていた。まるで、瑞垣の心を見透かそうとするように。
腕を振り解くタイミングを失ってしまった瑞垣は、門脇の体温がじわりと自分の体に浸食してゆくのを感じた。

このままじゃ、だめだ。

何が駄目なのかはわからない。しかし、本能的な恐怖が瑞垣の心を締め付けた。

このままじゃ、壊れてしまう。

咄嗟に取り繕うような言葉を口にした。

「離れたから、やろ。これまでずっと、殆ど一緒におったから。……それだけや」
門脇の腕に力が込められた。熱を持った指が瑞垣の腕に食い込み、痛みが走る。
「痛(い)てっ、やめろ、馬鹿力……!」
身じろぐ瑞垣を、門脇が不意に抱き寄せた。
「……なんや?! お前、何のジョーダンを……」
「冗談やない」
耳元で門脇の声がする。空調を寒い程に効かせているはずなのに、酷く暑く感じた。
あるいはそれは、門脇の体温なのかもしれなかった。
半袖のシャツから伸びた腕と腕が直に触れ、温もりを交わす。冷えていた筈の瑞垣の膚は、門脇の熱で焼き尽くされそうだった。
「お前を、知りたい。離れたから余計、そう思う。……友達としてだけや、なくて」
訥々と語る門脇の言葉が、瑞垣の耳に重く響いた。
「……友達じゃなかったら、なんなんや、……お前にとって、俺は」
瑞垣のそれは、引き返せない一言を強請(ねだ)る問いだった。
門脇は深く息を吸い込み、吐息混じりに囁く。
「お前が、好きや……俊」

……ああ、壊れてしまった。

グラウンドや、グローブや、野球のボールが。
幼馴染みとしての二人の思い出の中に詰まっていたそんな物たちが、瑞垣の中で溶けてゆく。
友人として知りたい事をとうに越えて、門脇の全てを知覚していたい自分を、瑞垣はそろそろ抑えられなくなっていたのだ。

壊したのは、秀吾。そして、俺。

瑞垣は自分から秀吾の背中に腕を回した。
門脇の熱に当てられたのか、瑞垣の体温まで上がってくるのがわかる。
「……知りたいのは、お前だけやないんや、秀吾」
瑞垣は観念したように一つ、溜息をつく。
そして不意に、門脇の唇に、キスを一つ落とした。

「俺も……好きや」
今度は、門脇の方から口づける。乾いた唇が触れる感触は心地よくて、瑞垣はそっと目を瞑る。
優しく触れるキスを繰り返しながら、瑞垣は二人の中で、何かが終わった事を悟ったのだった。

瑞垣は唐突に、門脇の体を引き剥がす。
「……でも、今日はここまで、な」
え、と不服の声を上げる門脇に、意地の悪い笑みを浮かべる。
「50番に入ったら、この先を考えてやってもええ」
「……無理!」
「学生の本分は勉強や。成績が上がったらな」
文句を垂れながらも、しおしおと勉強に戻った門脇の姿を見て、瑞垣はそっと安堵の溜息をつく。
しかしこの日、二人は逃げ場のないステージへ移ってしまったのだと……瑞垣は幾莫かの後悔の気持ちと共に、悟ったのだった。

<終>

お勉強・2 2007/09/07

一時間半ほど続けた所で、瑞垣の母が昼食を持ってきた。
海苔を巻いたおにぎりとみそ汁、漬け物に野菜炒めというシンプルなメニューがそれほど大きくはないテーブルいっぱいに並べられ、頭脳労働で消耗した二人は無言で平らげる。
かなり大量に作ってあったそれは6割ほど門脇が片づけ、あらかた空になった頃、くちくなった腹をさすりながら門脇が話しかけてきた。
「……やっぱりお前、すげぇな。学校の先生よりわかりやすいかも。 
塾、結局行ってないんじゃろ? ……うん、すげぇ」
最後は一人納得したように頷く。感心しきった門脇の様子に、瑞垣は苦笑するしかなかった。
塾はやめてしまったままだが、再び野球に関わるようになってから、不思議な事に成績も安定してきた。
……いや。正確にいうと、高校入学後に門脇と再会してから。
硬球の特性をまだ完全に把握しきれずに試行錯誤を繰り返すその姿を見てから、そしてOBとして再び横手に関わるようになってから、何らかの変化が瑞垣の心の中に起こっていた。
それがどんなものなのか、瑞垣にもまだわからないのだが。
少なくとも、昔ほど「野球」に触れる事に対して苦痛を感じる事がなくなっていた。
そして、門脇と会って言葉を交わす事にも。
むしろ積極的に話したいと思う自分がいる。
門脇がどんなものを見、何を感じたのか、切実な程に知りたいという欲求がある。
「……そんなに人の事に感心しとる場合か。試験が終わったら甲子園への椅子取りゲームが始まるじゃろ。
ここで赤点とったらあんまりみっともないからな。期待の星が赤点の星になったらシャレにならんし」
言葉に詰まって黙り込む門脇を笑いながら、瑞垣は冷たい麦茶を一口飲んだ。からりと氷の音がする。
「調子はどうだ? 硬球にはいい加減慣れたじゃろ」
さりげない会話を装って、瑞垣は少しずつ自分の欲求をあらわにする。

知りたい。
門脇の事を、もっと。

門脇は不意に真剣な顔をして瑞垣の質問に答えた。じっと瑞垣を見つめる門脇の瞳は、全ての誤魔化しを許さない、真摯な光を放っている。瑞垣は息を呑んだ。

「俺は大した変化はない。ただ毎日、野球の練習をしとるだけじゃから。中学の時と変わらん。
……だから、すげぇ、お前の事が気になる。野球やめて、塾も行かんで、横手にも顔を出さない間、お前が一体どうしとるのか、知りたい。」

門脇は不意に膝立ちになり、鍛えられた腕で瑞垣の肩をつかんだ。布越しに門脇の体温が感じられて、その生々しさに瑞垣は逃げ出したくなる。

「なあ、俊……何で、こんなに、お前の事が気になるのか、俺にもわからん。……どうしてだと、思う?」

<続く>

お勉強<門瑞>・1 2007/08/27

高校生活最初の期末試験を翌週に控えた土曜日の朝。
瑞垣俊二の携帯に、今は違う高校に通う門脇秀吾からのメールが入っていた。

曰く。

『数学がわからんから教えて。かなりヤバイ』

シンプルな文面が逆に門脇のせっぱ詰まった様子を思わせた。
確かに、試験でつまづいていたら野球どころの話ではない。
ベッドの上に寝っ転がったまま携帯を見ていた瑞垣は、おもむろに返事を送る。

『試験範囲はどの辺まで?』

瑞垣が通うのは県内でも屈指の進学校だから、授業数も多いし、範囲も広く、かなり高度な問題まで出てくる。
しかし門脇の学校はどれくらいのレベルでどこまで進んでいるのか。それがわからない事には返答のしようがなかった。

門脇からの返信を待つ。
しかしきっちり10分後、玄関のチャイムが鳴った。
妹のどこか浮かれた声が聞こえ、続いて部屋のドアがノックされた。

「俊!」

走ってきたのだろうか。顔を赤くした門脇が、大きなリュックを抱えて立っている。
「……お前、何でそんなにせっかちなんだ。俺に用事があるとか、考えなかったのか?」
呆れ顔で瑞垣が毒づくと、門脇は恐縮した様子でコンビニの袋を差し出した。
「いや、お前なら、出かけるにしても午後からかな、と思って。これ、食ってくれ」
実は今日は1日暇なので、とりあえず試験勉強をするつもりだったのだ。行動パターンを完全に読まれているようで、何となく気にくわない。
瑞垣は無言で受け取り、お礼らしいその袋の中身を見た。ポテチとアイスが入っている。
「……これだけ?」
からかってみたくなって揶揄すると、門脇はさらに申し訳なさそうな顔をする。
「今、あんまり手持ちの金がなくて。また今度、改めてお礼するから。試験終わったらレッチェに行こうや」
「あ、じゃあ、スペシャルセットな」
瑞垣の切り返しに、門脇は複雑な顔をした。結構な値段なのだ。
渋々といった感じで頷くと、門脇は早速、テーブルの上に教科書とノートをひろげ始めた。
黄色や緑やピンクの付箋紙があちこちに貼ってある。こういう所は変に律儀な男だ。
ぱらぱらと教科書を捲る。教科書の出版社は瑞垣と同じ所だったが、問題のレベルが少し簡単になっているようだった。範囲も瑞垣の学校ほどには広くはないし、既に中間試験の試験範囲になっていた分野もある。
これだったら何とか教える事は出来そうだ。
「で、どの辺がわからん? それがわからんと教えようがない」
門脇は元来生真面目な質だから、中学時代も成績はそれ程悪くはなかった。
瑞垣はそんなに努力しなくとも成績は飛び抜けて良かったが、野球の練習の合間にもこつこつと努力する門脇の姿には頭が下がる思いだった。自分は元来そんな努力とは無縁だ。
しかし、高校レベルとなるとなかなかうまく行かない部分があるらしい。
「ええと、ここと、ここと、……何でこうなるのかがわからん部分もあったり」
付箋紙でマークした部分をパラパラと捲っていく。授業や宿題で何度か解いた問題が殆どだったので、これなら問題なく教えられそうだ。
「この瑞垣様が教えてやるんだから、テストで80点以上取れよ。ええな?」
「……なんか偉そうじゃな。80点は無理かもしれんけど……とりあえず、よろしくな」

<続く>

狂熱 2007/08/18

ギャグ落ちかも…しかも落ちてないかも…。
以下18禁です。しかも微妙に朝チュン気味ですが、どうぞ。
リハビリな気持ちで書いてますので、ご容赦を。

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