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主上の白梅院行幸が終わると、すぐに新嘗祭の準備が始まり、忙しい宮中行事の中で馨君はただ目の前の仕事に集中する日々が続いた。
それ以外の時は三条邸で冬の君から笛を習ったり、反対に冬の君に独楽回しを教えたり、漢籍を一緒に習ったりして過ごしていた。馨君が宮中での宴や同僚同士の付き合いに顔を出さなくても、人々は新しく見つかった弟君を可愛がっておいでなのだろうと勝手に噂した。
もう子供ではないのだからと三条邸の寝殿から西の対へ移った馨君は、冬の君といない時にはぼんやりと琵琶をつまびいたり笛を吹いたり、時々、料紙を小刀で切って、いくつも鳥を折ったりしてお付き女房の双海を驚かせたりした。
「お上手ですねえ、馨君さま。このような小さなものまで」
切った料紙の余りを正方形に切り直して作った鳥は、大きな鳥とまるで親子のように並んでいて、双海は感激したように鳥を手に取って言った。料紙の切れ端を片付けながらそんなでもないよと答えると、馨君は夢中で折った鳥に囲まれているのを見て苦笑した。
「小さい頃、三篤どのに教えていただいたんだ。鳥の舞を習ったので…その後、藤壺さまが三条邸へお見えになられたので舞を披露したり、あの頃は楽しかったなあ」
「私はまだその頃はお務めさせていただいておりませんでしたけれども、藤壺さまが内親王さまをお生みになられた時のことは覚えていますわ。京中が大変な騒ぎでしたもの。主上の一の妃なのですから、さぞかしお美しい方なのでしょうねえ、藤壺さまは」
「うん、お美しい方だよ」
冬の君が絢子に似ていると広まれば絢子の顔立ちが世間に知れてしまうと、馨君は時の大輔と話し合ってそれを黙っていることにした。ただ美しい方と言うだけに留めて馨君が鳥を手に取ると、双海は目を細めた馨君の横顔を見て尋ねた。
「馨君さま、若葉さんからお文が届きましたのよ」
「え?」
馨君が鳥を文箱に直しながら尋ねると、双海はそれを手伝いながら答えた。
「東一条邸では、馨君さまの訪れがないので火の消えたような寂しさだと書いてございましたわ。お忙しいのだから、馨君さまには申し上げてはいけないと書いてありましたけど…私、少し心配で」
「…そう」
目を伏せて馨君が呟くと、双海は黙ったまま馨君の返事を待った。若葉の奴、俺への文にはみな元気で楽しくやっていると書いていたのに。ふうとため息をつくと、馨君は取り繕うように笑みを浮かべた。
「分かった。大臣大饗のことでもいずれ佐保宮さまに会わなければならない所だったから、一度様子を見に行くよ」
馨君が答えると、双海はホッとしたようによろしくお願いいたしますと言って笑った。先日の白梅院行幸の時にもほとんど顔を合わせずに済んでいたが…。目を伏せて文箱の中に鳥の最後の一羽を納めると、それを少し眺めてから馨君は文箱に蓋をかぶせた。 |