「雪の夜-弐」




 この辺りには一見の客を入れるような店はない。

 あまり好みの手ではなかったが、新撰組の名を出した。

 内密の話があるから、と人が近づきにくい部屋を頼んだ。

 女将はまさか、色白の頬をかすかに上気させ、俯き加減で黒の羽二重に身を包んだほっそりした男が新撰組の副長だとは思いもしなかっただろう。
 たとえ、どこかで、「新撰組副長」を見たことがあったとしても。

 だから、女将がどう思ったかは知らないが、庭を横目に長い廊下を歩き、通された部屋は要求通りのものだった。


 二間続きのその部屋の奥の間に褥の用意がしてあった。
 一の間に一刻後に夕食の支度を頼んで、人を払った。




 「………。」


 仲居が襖を閉めるのももどかしく、土方を抱きしめた。

 さすがに、新撰組副長の男との情事と知れるのは憚られたから仲居が遠ざかるまでは名を呼べない。


 もどかしく、着物の上から手を這わせながら、うなじと、耳の付け根へと、鼻を押し当てた。

 土方の匂いを吸い込む。


 「…ああ、」


 沖田が漏らした吐息に土方が身じろいだ。

 首筋に唇を押しあて、吸い付くと、小さく声があがって、土方が息をつめた。

 そのまま、首筋から耳の後ろまで唇を這わせ、頬まで唇でたどり。

 前を向かせ、顔中に唇を這わせながら、顔を上向かせ。

 たどりついた唇を吸った。



 餓えていた。

 互いに。

 だが、貪るような口吸いが、噛み付くような口吸いになり、すべて吸い尽くそうとするかのような激しさで求めてくるのに、土方が慄いた。

 顔を逸らそうとして、強い指で顎を捕らえられ、固定され、怯えがはしった。


 「ンう………」


 土方の怯えが沖田に伝わって、沖田の中の獣を刺激した。


 「アッ…!」


 強引に畳に押し倒されて土方が思わず声をあげる。

 声をあげた口を唇でふさがれ、性急に着物の下に手が忍び込んでくる。


 「はっ、……あ!…まっ、…ま―――あぁ、」


 制止の言葉を発する間も与えられないまま、わけの分からないうちに、下肢に冷たい空気を感じて鳥肌が立った。

 いつの間にか、袴が取り払われている。
 黒の羽二重の乱れた裾からのぞく己の足が目に飛び込んできた。
 その足の白さ、足袋の白さと黒い着物の対比があまりに淫蕩で、己のものでありながら背筋がざわめいた。


 「ああッ!」


 熱くやわらかな濡れたものが内股を掠め。

 それが沖田の舌であったと気が付いたときには、足を掴みひろげられ、内股に強く吸い付かれていた。


 「―――っん!」


 快感が強すぎて、言葉を継げない。

 息を詰め、声があがるのを堪えた。

 沖田の唇が内股から離れた瞬間、名を呼ぼうとした唇をまたふさがれて。


 「んう、…ん………ん!………んん!!」


 沖田の手が下帯にかかり、下帯を解いてゆく。


 明るい灯火の中で己だけが乱され剥がれてゆく。

 いやだ、と首を振って、唇を外した首筋に今度は強く吸い付かれた。


 「ア!……アッ!………い、いや、…ああ、」


 もっとゆっくり沖田を感じたかった。
 もっとゆっくり高められたかった。

 吐息を耳に吹き込まれ、舐められ、噛み付かれ、快感に涙を流す。


 沖田の胸についた手を片手で絡めとられ、頭の上で畳に押さえつけられ。

 下帯にかけられていた沖田の手が、目指すものを探り当て、土方は唇を噛み締めた。


 「ああ、」


 土方の代わりに沖田が吐息を漏らした。

 土方のものを握り。
 ときに離し。弄るように動かされる手の動きに理性が薄れてゆく。


 それでも唇を噛み締めたままの土方に、


 「声、聞かせてくれないの?」


 沖田が言って。

 土方は唇を噛み締めたまま首を振った。


 しばし、土方を見つめる気配があって、近くにあった沖田の顔が離れていく。

 土方の頭の上で土方の手を拘束していた手も土方の腕を撫でるよう伝いながら下へ降りていく。


 なにをされるかが分かって、体を起こそうとして胸を抑えられた。


 「―――い、いやだ…」


 己だけが狂わされる。

 暴れようとした下肢も抑えられた。


 「―――や、やめ…、」


 沖田の吐息をそこに感じ。


 「―――ッああ!!」


 口に含まれた。

 上へ逃れようとした腰を抱いて押さえ込まれ。

 沖田の舌が己の形をたどっていく。舌を差し込まれ、吸い上げられ、理性がとんでいく。


 「ああ!!………あっ、あっ、あっ、…」


 最初、沖田の頭を引き剥がそうとしていた手は、
もう剥がそうとしているのか、押えているのか分からない。

 両足は、いつの間にか、沖田の頭を挟みこみ。


 「あっ………、あああ!!」


 強く吸い上げられて、土方は己のものを沖田の口へ放った。


 「は、………あ、………あぁ、」


 呼吸が整わないうちに口に己のものの匂いのする舌をねじ込まれ。


 「う、…ん、んん………ん、」


 沖田の指を後ろに感じた。
 沖田の指が後ろを解していく。
 むず痒いような、快感が背筋を這いのぼり。

 なす術もなく沖田の背中へ腕を回し、土方は今更のように、二人の着衣がほとんど部屋へ入ったままの状態であることに気が付いた。

 沖田はかろうじて羽織を脱ぎ捨てたようではあったものの、着物にほとんど乱れはない。
 土方にいたっては、羽織も着たまま、下肢だけが乱されている。

 そのことが土方の羞恥を煽り、そして、なにか哀しかった。


 ふいに後ろの圧迫がなくなり。

 次の瞬間、固く熱い塊が押し付けられ。

 肩を押えられ。


 「―――ッアア!!」


 沖田のものを押し込まれた。






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