氷点



(参)


数日後、浪士組から離れた近藤たちに、仲間に加わりたいと斎藤は申し出た。
勿論、沖田を介してである。
斎藤が京に居ることを知らずにいた面々は、沖田が仲間に加わりたい人がいると言っても、てんで信用しなかったそうだ。
それはそうだろうと思う。
山のものとも、海のものとも知れぬ、江戸から来た浪人の集団に加わりたい、などという物好きは、そうそういるものではない。
斎藤とて、沖田たちがいなければ、入ろう等とは思わなかったはずだ。



斎藤は沖田に連れられて、試衛館の皆が飲んでいる席に行った。
座敷の障子を開けた沖田に引き続き、斎藤が入っていくと、皆の驚きの顔に出迎えられた。
近藤の前に座り、
「随分とご無沙汰をしておりまして……」
と、斎藤が詫び、仲間に加えて貰いたい旨を告げると、
「斎藤君が、京に居るとは思わなかった」
漸う近藤の呆けも落ち着いたと見え、鷹揚に頷いた。
「だが、大歓迎だ。力になってくれたまえ」
このおおらかさが、近藤の持ち味だろう。
「心強いよ、斎藤君」
「百人力だぜっ」
「一手、お手合わせといこうか」
「よろしく、頼みますよ」
近藤に惹かれて集った食客連中が、こぞって賛意を示してくれた。
皆が口々に言う中、終始無言だったのが、藤堂と土方だった。
藤堂は剣を持つと猪突猛進な男だが、普段はいたって大人しい男で、今までにも余り口を利いたことがなかったから、気にはならなかった。
しかし、土方は何処となく不機嫌で、斎藤を睨んだままだ。
前は結構愛想の良い男だと思っていたのだが、違うのだろうか。
「しかし、総司。お前、いつ斎藤君と出会ったんだ?」
「そうだぜ。今まで一言もなしでよ」
近藤が沖田に問い掛けると、全く知らなかった原田が、剥れた様に沖田に突っかかっていった。
「えっ。ああ、京へ来た翌日ですよ。斎藤さんが訪ねてきてくれて……」
「なにっ! そんな前からか?!」
沖田と斎藤を交互に見ながら、原田が大仰に驚いた。
「浪士組が京へ来たというので、その中にきっと皆さんが、居るだろうと思いまして」
斎藤が近藤に答えると、
「で、それなのに、俺たちには今日が最初ってか?」
原田はさらに突っ込んでくる。
「いや……」
突っ込まれて、咄嗟に言いよどんだ斎藤に、沖田がすかさず庇った。
「だって、先生たちは、ずっと忙しかったでしょう? 左之さんは、色々と遊びに、さ」
沖田の言葉に原田は、やぶ蛇だとばかりに、天井を仰ぎ、皆は思わず爆笑してしまった。
沖田は、こういう風に場を和ますのが得意だった。
しかし、その中でも、一人笑いもせず、むっつりと黙したまま酒を飲んでいる土方が、斎藤の眼に異様に映った。




やっとこさ、土方さんも登場です。



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