氷点



(拾壱)


契約の証にと、斎藤は早速土方の躯を求めた。
「ほら、沖田と寝てるときは、一体どういう風なんだ?」
一度だけ垣間見た、土方と沖田の情交を思い浮かべて、斎藤は土方の口を吸った。
嫌がり顔を離そうとする土方の顎に手を掛け、がっちりと掴み逸らすことを許さず、舌を差し入れて絡めた。
乱暴に帯を緩め、袴を脱がし、胸元を大きく肌蹴ると、そこにはうっすらと愛撫の痕が。
「ほう。沖田がつけた痕か?」
その痕を指でなぞると、それだけで土方の躯が慄いた。
「良い感度、だな」
嘲笑うように言いながら、そこへ唇を寄せようとした斎藤だったが、
「痕を、残すなっ」
切羽詰ったように土方に言われ、上目使いに見上げて、にやりと哂った。
「承知」
痕を刻み付けたい衝動はあったが、斎藤の目的は土方を甚振ることであり、沖田に含むところは何もない。
だから、斎藤がつけた痕を見て、沖田が余計な苦しみを与えることは、本意ではなかったので、斎藤は土方の望みを受け入れた。
代わりにその痕を舐め、乳首を摘み、土方の眉根を寄せた表情を見遣った。
抱かれることに慣れた躯は、相手が愛しい沖田でなくとも、快感に変えるのだろう、白皙のと謂われる顔が上気して、堪えようとしている様は、土方が意識せずとも淫靡であった。
この顔が、沖田を誑かして、我が物にしたのかと思うと、斎藤のうちに憎さが募った。
完全に脱がしきらぬ着物の裾から手を滑らし、形を変え始めていた土方のものを唐突に掴んだ。
「いっ……」
思い切り掴まれて、土方の躯が逃げを打つ。
それをがっちりと押さえつけて、斎藤は強引に扱きたてていった。
「沖田には、自分から足を広げていただろう? 同じようにしろよ」
斎藤がそう言うと、土方はその言葉の意味を考えるような、そんな表情を見せた。
「相撲取りとの一件の後、一度あんたが抱かれているのを見た」
沖田との情事を見られたことがあったと知って、土方が驚くのを、斎藤は面白げに見た。
土方のものを扱きたてていた手を離し、その指で後ろを思いっきり穿った。
「ひっ!」
女の壷ではないのだ、濡れてくることをしないそこは、本来はじっくりと解すものだろうが、斎藤にはそんな気はない。
ただ、土方に快感を与えるのが、目的ではないのだから。
嫌っている、殺したいほど憎んでいる斎藤に、土方が抱かれる。
その屈辱を味あわせるために抱くのだ。
捻じ込んだ指を、襞を引っ掻くように回したり、折り曲げたりしつつ、土方が堕ちてくるのを、斎藤は気長に待った。
そして、斎藤の節くれだった指が、ある一点に触れたとき、土方の躯がびくりと大きく跳ねた。
「ここが、いいのか?」
斎藤はにやりと北叟笑みながら、土方のその場所を何度も突付いた。
土方は首を振って否定するが、斎藤の指がそこを突付く度に、びくびくと躯が跳ねるのを押さえられずにいた。
「ふん。躯は、正直なようだが?」
斎藤がそう言うのもその筈で、斎藤の指が強引に穿った当初は、痛みからか青褪めていた肌も、今ではほんのりと色付いてきつつある。
何よりも、歳三のものからたらたらと溢れ出るものが、快感の証だろう。
「良いなら良いと言え。でなければ、ずっとこうして嬲ったままだ」
そう言って、斎藤は指をぐるりと掻き回した。
「ひっ、んっぁ……あ……」
違うと首を振る土方に、強情な、と斎藤は捻じ込んでは抜きながら、指の数を増やしてゆくと、土方の言葉とは裏腹に、尻は貪欲に飲み込んでゆく。
土方のものから溢れてくるものが伝わって、斎藤の指を濡らし、土方の尻を濡らし、次第にぐちゅぐちゅと卑猥な音を立て始めていた。
「指が何本入っているか、分かるか?」
「…………」
斎藤が土方に問うと、土方は無言で睨みつけてくる。
だが、快楽に潤んだ瞳では、逆効果というもの。
「三本だ。よく入るものだ」
斎藤はせせら哂って、一旦引き抜きかけた指を、思い切り突き入れた。
「っあ、……あぁっ」
反射的に仰け反った土方を見て、斎藤は満足げに目を細め、土方の喉元に喰らいついた。
斎藤のなすがままに、足を広げて歳三は喘ぐ。
黒い着物から見える白い足が、なんとも艶かしい。
奥を執拗に抉られ快楽を引きずり出されても、一方で根元を押さえられ射精を封じられて、躯は出口のない快楽に慄くだけであった。
果てることもできず、気をやってしまうこともできず、極限まで追い詰められた躯は、本人の理性を食い破っていった。
「如何したい? このまま、喘ぎ続けるか? なんなら、狂うまで」
土方を嬲りながら、斎藤は暗く哂った。
土方がこのまま淫楽に溺れ狂うのなら、斎藤はそれでも良かった。
別に斎藤には、痛くも痒くもない。
随分と薹が立っていても、この躯だ。
狂った後は、男の体を大好きな奴らに投げ与えてやれば、むしゃぶり尽くしてくれるだろう。
目の前から土方がいなくなれば、沖田は悲しむだろうが、それはそれで仕方がないとも思う。
斎藤の本気を感じ取り、また快楽に慄く躯に負け、土方は呟いた。
「…………」
「聞こえん」
小さく微かな声では斎藤の耳に届く筈もなく、斎藤は無慈悲にも再度答えを求めた。
「いかせて、くれ。果てさせてくれ」
土方が、喘ぎ喘ぎ望みを口にしても、
「ほう? それだけで満足か? この躯は?」
斎藤は意地悪く、もっと別の答えを引き出そうと、歳三の中を穿った指を蠢かした。
「あぁっ! やっぁ……あ……、いれ、てくれ、斎藤っ」
「いいだろう」
斎藤は土方の足を抱え上げ、怒張した自分のそれを押し当て、ゆっくりと呑み込ませていった。
「いいか? これが契約だ」
極限まで高められた土方の躯は、たとえ沖田のものでなくとも、嬉々として受け入れていく。
「忘れるなよ。これ一度だけじゃない。今後、私が望んだときに、抱かれてもらう」
奥を穿ち、前を扱きたてて、高みへと土方を導いてやりながら、斎藤は契約の確認をした。
「良いな?」
斎藤に揺さぶられつつも、土方はがくがくと首を縦に振ってそれを承知し、そして自ら尻を振った。




エロは続く〜よ、何処までも〜。てな、感じで続きます。



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