氷点



(拾参)


斎藤が伊東たちと新撰組を抜けた――たとえ、言葉をどう取り繕うと分離ではなく、隊を抜けたことに変わりはない――後、斎藤と土方を繋ぐのは、土方が信頼を置いた一握りの者たちだった。
それは、斎藤が間者であると、知られないための方策であった。
知らない人数が少なければ少ないほど、外部へと漏れる率も低くなるのだから。
だが、斎藤との契約のためには、二人が会う必要がどうしても出てくる。
そんなときには、繋ぎの者に託した文に、その隠語を含んだ言葉を添えた。



密会の場所は幾つかあり、そのつど変わる。
斎藤が日時を指定して繋ぎの者に渡すと、土方から了解という意味を含めた場所の指示が返って来るのだ。
そして近頃、土方は斎藤に会う前に、必ず沖田と寝てくる。
だから、土方の躯には、沖田の愛撫の名残がそこかしこにある。
斎藤に見せ付ける意味合いもあろう。
それに気付いたときから、斎藤は逆に抱かれてくる土方の、その沖田の残した愛撫の痕を辿るように、抱くようになった。
そうすれば、土方の乱れ具合も今までとは違い、早いように思えた。



一度などは沖田の名残を、肌の上だけでなく、中にまで残してやってきた。
土方を引き倒し貪ろうとして、それに気付いた斎藤は一瞬ぴたりと動きを止めた。
斎藤としても、そこまでされれば苦笑うしかないだろう。
正面から抱こうとしていた斎藤は、土方の躯をくるりと裏返し四つん這いに這わせた。
土方は少し抗いの素振りを見せたが、そんなことを意に介する斎藤ではない。
乱れた着物を脱がすのももどかしく、勢い良く裾を捲くり上げ、既に下帯をつけていない尻を露出させた。
露になった尻を親指で押し広げ、片方の指をずぶりと差し入れると、それだけでぐしゃりとした濡れた音が響き、ぐりっと掻き回してやると、ぐしゃぐしゃと淫らがましい音が更に響いた。
「くっ……、う……ぅ」
抑えようとして果たせず、土方の口から声が漏れる。
指を捻じ込ませ掻き回すと、その強引な行為に慄く躯を捻じ伏せて、斎藤は行為を進めた。
「ほら、出てきたぞ。沖田のが中から……」
最初は閉じられていたそこも、斎藤の太い指で強引に開かれ、散々に嬲られて指を引き抜かれると、どろりとしたものが中から溢れてきた。
くつくつと、斎藤は喉の奥で哂い、土方の中から出てくる様を、まじまじと意地悪く眺めた。
ひくひくとひくつきながら、土方からは白濁が零れ落ちている。
斎藤の視線を感じるのか、土方はその視線から逃れるかのように、頭を己の腕の中に覆ったままだ。
もっとも斎藤に言わせれば、そんな格好で来た土方が悪いのだ、ということになる。
斎藤はしばらくその姿態を眺めていたが、やがておもむろに土方に自分を突き入れた。
「いっ、……っ」
その途端、土方の背が撓り、逃げようと躯が前に動くが、斎藤は大きな手でしっかりと土方の腰を掴み、逃がしはしないまま、更に奥へと腰を進めた。
「あっ……、あ・ぁ……」
沖田のものが潤滑の役を果たしているのだろう、易々と斎藤のものは奥へと飲み込まれていく。
また、此処へ来る直前まで沖田とまぐわっていただろう土方の躯は、容易に高みへと上り詰めていくようだ。
絡みつくように収縮して斎藤を迎え入れ、土方の白い背は婀娜めくほどに色付いていく。
それに目を細めながら、斎藤は激しく突き上げて、果てた。
一つの蝋燭が揺れるだけの室内は、二人の荒い息遣いのほかは何も聞こえるものがなかったが、やがて斎藤は息を整え土方から躯を離した。
その途端、崩折れそうになる土方の腰を支え、姿勢を崩すことを斎藤は許さなかった。
斎藤が抜けた土方の尻からは、沖田と斎藤との混ざり合ったものが、含みきれずに流れ出てくる。
しかし、内腿を伝う感触さえ、敏感になっている土方には、快感としか捉えられず、砕けそうになる腰を斎藤の手が拒む以上、突っ伏すこともできずに必死に支えていた。
視姦するように視線を当てていた斎藤だが、
「だが、まだ足らぬだろう?」
揶揄するように言い、足首を掴んで乱暴に土方をひっくり返し、足を高く持ち上げた。
そんな体勢でありながら、土方の快楽に潤んだ目が、それでも斎藤を射抜く。
その眼にぞくぞくとしたものを感じながら、斎藤は土方を組み敷き、再度犯した。
土方が精根尽き果て、意識を失うまで、ただ犯し続けた。






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