氷点



(拾漆)


薄暗い部屋の中、絡まりあった肢体が、ぼんやりと揺らめいていた。
寝床に仰向けになっている沖田の上に、土方は圧し掛かるようにして頭を抱き、口を貪った。
息があがるのも厭わず、幾度となく角度を変えて舌を絡めた。
「ん、……んんぅ……」
室内に響く音は、二人が貪りあう、ぴちゃぴちゃと湿った音だけである。
やがて土方が満足して離れた頃は、沖田の少し色の悪い薄い唇も、艶やかに色付いていて、土方の心を満たした。
にっこりと微笑みを見せて、土方は体をずらして、沖田の崩れた着物を脱がしに掛かった。
はらりと前が肌蹴ると、少し痩せた沖田の躯が現れ、土方は心もち悲しくなったが、そんな素振りは見せないようにして、その躯に手をそっと這わせた。
首筋から肩甲骨へと撫で、肩先から胸板へと伝わっていき、腹筋へと辿り着いていく。
もちろん、沖田も同じように土方の帯に手を掛けて、肌蹴た土方の胸元に覗く既に尖った飾りに触れた。
それだけで、土方の躯は慄くように震えた。
そして、先程手が辿ったとおりに、土方の唇が辿ってゆく。
その間に、更に下へと降りていった手は、沖田の下帯を外して、兆し始めている沖田を包み込んだ。
巧みに指を絡め、扱きたててゆく。
手の内で姿を変えるそれが、土方には何よりいとおしいものだった。
やがて追いついた土方の唇は、沖田のまだ緩やかな屹立のそれを、口に含み猛々しく煽り立ててゆく。
女と違って男が施すそれは、己の躯で体感している分、直接的で的確である。
口にすっぽりと含み口全体で愛撫を施したり、舌で先端をちろちろと突付いたり、舌を大きく使い裏側を舐め上げたりと、技巧の限りを尽くし、さらに手で煽ることも忘れない。
そうやって瞬く間に土方は、沖田を追い上げていった。
「はぁっ、くぅ……」
沖田の息遣いが、だんだんと乱れて荒くなってくるのを聞きとがめ、土方は顔を上げた。
「そうじ……」
耐えるような表情の沖田を見て、土方は艶やかな笑みを見せた。
もう一度土方は、沖田に手を添えて口に含んで、もっと高みへと追い上げていく。
そうして、空いているもう一方の手は、沖田を受け入れるべく己の躯を解し始めた。
沖田と一つになるのに、土方には一切の躊躇はない。
大胆に指を差し入れ、受け入れられるように己で蹂躙していく。
「んっ、ぅ……」
土方自身には触れてもいないのに関わらず、先走りが溢れてきていて限界が近くなってきていた。
その様は、奉仕されている沖田にも、伝わっているだろう。
沖田も土方と同様に先走りの雫が滲み出てきていて、土方の口にその苦味を味あわせていて、土方の豊かな黒髪に指を絡めるように梳いていた沖田の手は、いつしか力強く土方の髪を掴んでいた。
「とし、さん……」
名を呼ばれて見上げた土方の唇は、紅く濡れて紅唇というべき艶やかさだ。
どこかうっとりとした表情で笑いかける土方の顎を捉え、そこに伝う唾液を沖田は親指で拭ってやった。
「そうじ」
その沖田の親指を今度は代わりに口に含み、そのまま土方は沖田の上に跨って、己でほぐしたそこに、大きく怒張させた沖田のものを宛がって、ゆっくりと腰を下ろしてゆく。
しっかりと腰を下ろすと、己の指では届かない最奥の壷に沖田のものがあたり、それだけで快感に躯が震える。
「あ、あぁ……」
感極まった声が、土方の口をついて漏れる。
深く呑み込んだまま、しばらく動けずにいた土方だったが、沖田の脇に手をつき、尻を上下に動かし始めた。
「気持ち、いいか?」
それにつれて、横たわったままの沖田の猛々しいものが土方の襞を擦って、なお土方の躯を震えさせる。
「ええ、もちろん。歳さんも?」
抜け落ちるほどに腰を上げては下ろすと、ずっずっと沖田のものが中を擦り上げて、土方に得も言われぬ快感を引き出す。
「ああ、いい。すごく……」
中は蕩けるほどに熱く、沖田に絡み付いて離さない。
沖田はしゃぶらせていた指を抜き、弄ってくれと言わんばかりに紅く尖った土方の乳首を、摘み押し潰し捏ね繰り回した。
「あっ、……んぅ」
唾液に濡れ、蝋燭の灯にてらてらと鈍く光るそれは、更なる蹂躙を待ち望んでいるかのようだ。
滾った躯を沖田の目の前に大胆に晒し、もっともっとと言うように腰を振るう。
沖田の片手は支えるように、ずっと土方の腰に添えられたままで。
何度目になるか分からぬが、沖田を呑み込んでいた土方が腰を下ろした刹那、沖田が下から突き上げた。
「ひっ! あっ、あ……」
音にしかならぬ声が漏れ、土方の怒張したものは一気に弾け、沖田の腹の上に勢い良くぶち撒けた。
もちろんそれに伴って土方の中も激しく収縮して沖田を締め上げ、それが沖田に最後を迎えさせた。
「うっ」
総司の迸りを奥へと受け、その勢いの感覚に止まることを知らぬ快感が土方の背を駆け抜け、土方の躯は萎えることを知らなかった。
それは、ひくひくとひくつく土方の内部に包まれている、沖田も同様であったが。
胸元にまで飛び散った己の白濁を、土方は沖田を身の内に納めたまま、舌で丁寧に舐め取ってゆく。
土方の腰はそうしている間も、ゆらゆらと揺れて、沖田を再び奮い立たせていった。
沖田と睦み合うときは、土方には至福のときで、いくらしてもし足りるということがない。
今では、沖田の躯の負担になるとは分かっていても、まだ足りないのだ。
このあと、斎藤の元へ行かねばならなかったが、それを忘れるように土方は沖田の上で髪を振り乱した。



寝入った沖田を置き去りに、土方は手早く身支度を済ませた。
最後の口付けの際に眠り薬を調合した酒を飲ましたから、沖田は土方が帰ってくる明け方まで目覚めることはないだろう。
その沖田の寝顔を凝視していたが、やがて吹っ切るように頭を振り、一つ口付けを落として、後ろ髪を引かれながら、土方は部屋を出て行った。
斎藤に見せ付けるべく、情交の名残を色濃く、躯に張り付かせて。






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