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第四章 第五話
――ここは悲しみの都。
その中でもリリスの側近であるルルカ・モルゲンの居室では、いつになく激しく彼女を求める男の姿があった。
香織さんに自分を否定されたように感じた俺は、部屋へ戻ったあともずっと居心地が悪かった。
ここに存在することすら許されないような、そんな心境だった。
世界のどこにも自分の居場所がないように思えた。
やがて、朝を迎える前に俺は気がつくとサキュバスの世界へのゲートを自分から開いていた。
そして何も考えずに足を踏み出したつもりだったが、ゲートの先で俺を迎えてくれたのはルルカだった。
(そうか、俺は無意識に香織さんのことを思い浮かべていたんだ……
だからそっくりな彼女のもとへ転送されてしまったんだろう)
直感的にそう理解した。
目の前のルルカを見つめると、とても優しい表情で微笑み返してくれる。
胸を締め付けられるような思いとともに俺はルルカを強く抱きしめていた。
◆
「はぁ、はぁ、はぁっ!」
自分でもおかしいと感じるほどに激しくサキュバスの肉体を求める。
淫魔の柔肌は男の欲望を受け止めてますますつややかな蜜をにじませる。
肌を合わせているだけでどんどん危うい刺激が生成され、体の表面から魅了されていく……
「そろそろ、ですか?」
「んあっ、あああああああああああ!! イくううううううう!!」
ビュクッ、ビュルルルル!!
自分では止められない衝動が背筋を駆け抜け、脳に突き刺さる。
盛大に精液が放出されると心に隙間ができる。
だがその僅かな部分はすぐにルルカで満たされてしまう。
「う、ううううっ!」
「はい、また射精しちゃいましたね?」
わずかに腰を浮かせ、にこにこしながらルルカは射精最中の俺の肉棒を優しく握り込む。
吐き出したばかりのニュルニュルした潤滑油をたっぷりと手のひらで塗り拡げ、震える肉棒に追撃を加えてきた。
くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ……
「あ、ああああーーーーーーーーーーーーーっ!!」
右手でペニスをしごきながら、左手を俺の顎に添えて自分の方へと向かせている。
そして、見つめ合ったまま手首の返しだけで何度もカリや裏筋を刺激してくる。
柔らかな手のひらと、絡みつく指によって疲労しきっているはずなのに再び精を捧げてしまう。
ビュルッ!!
「んあふううう!」
またもや背筋を駆け抜ける脱力感によって、体の支えが効かなくなる。
そのまま前のめりにルルカの体に倒れ込んだ。
「ふふふ、気持ちよさそう……ユウマ様、今夜は激しいですね?」
「そんなこと、ないと、おもうけど……」
「えへへ、とっても激しいですよ~。ほらぁ」
ぎゅううう~~~~!
密着したことで益々愛しく感じる魅惑の肉体。
ルルカは俺を全身で受け止め、両手で背中を抱いてくれる。
(あたたかい……ルルカ、好きだ……でも香織さん、俺は……)
ちらりとルルカの横顔を見る。
香織さんと同じ顔立ちなので、何故か一人で気まずい雰囲気になってしまう。
正面から嫌いと言われたわけでもないのに、ましてやそんなことはルルカには関係ないのに。
「もっと、私で気持ちよくなってくれていいんですよ」
「あ……!」
指先が俺の顎をくすぐる。ゾクゾクするほど気持ちいい……
背中を這い回る彼女の手のひらがたまらなく心地よくて身を任せてしまう。
同時に連続射精したばかりのペニスが、じわりと熱を帯びて復活してくる。
「いかがですかぁ?」
「ふあ、や、優しい……ルルカのその手つき、気持ちよすぎて……ッ!」
「ふふふ♪ じゃあこれは?」
ルルカはそのまま愛撫を続けてくれた。
俺とぴったり重なりながら背中を優しく手のひらで撫でる。
そしてペニスへの刺激は控えめにして、じっと俺を見つめ直してから静かに唇を重ねてきた。
ちゅ、ううぅぅ……
とろけるような舌使いと唇の動きに連動して、円を描くようにルルカの腰がクネクネと波打つ。
いつの間にか長い尻尾が俺の右足とルルカの左足にまとわりついて、緩やかに上下しながら密着度を高めていた。
(ルル、カ、あああああ! か、おり、さん……ッ!)
ずいぶんと長い……心を溶かされてしまいそうになるキスだった。
俺はルルカと見つめ合いながら何度も彼女を求める。
大好きな顔立ち、俺にとって理想的な造形、女神に等しい女性と同じ顔をした淫魔……
その真っ赤な舌先は、形の良い口元から見え隠れしながら俺を誘惑する。
ちゅっちゅっちゅ、ちゅううぅぅ……
ちゅっ♪ ちゅっちゅっちゅ……
甘すぎる味わいに何度も酔わされる。
繰り返される終わりのない触れ合いの旋律。
軽く優しい、まるで羽根が撫でるようなキスに俺の心は溶け続ける。
「ルルカ、ルルカァ……」
「ふふふ♪ でも私とキスしながら、香織のことを思い出していたのでしょう」
「ッ!!」
甘い気持ちが反転して、心臓を直接冷たい手のひらで掴まれたような気分になる。
背中に流れる悪い汗を感じながら俺は視線と肩を落とす。
「ごめん……」
「なぜ謝るのです?」
相変わらずルルカの口調は優しい。
詫びる俺をいたわるようにルルカが尋ねる。
「だって、俺はルルカと交わっているのに他の女性の名前を――!」
「そんなのいいじゃないですか、べつに」
「っ!?」
あっさりと俺を許すルルカを見て、逆に俺が驚いてしまう。
セックスの最中に他の異性のことを考えるなんてありえない。
人間の世界でそんなことをしたら間違いなく非難されるだろう。
「私が気にするとでも思っていたのですか? ユウマ様と交わっているのはサキュバスですよ」
そう、確かにそのとおりだ。
ルルカはサキュバスで、俺は人間。
そしてこの世界のサキュバスは悲しみを知らない。それなら嫉妬もヤキモチも無くて当たり前かもしれない。
「いいのか、本当に……」
「ええ。だって私は男性の精力を吸い取り、快楽を与える存在ですから」
ルルカは微笑みながら長い脚を広げ、俺の腰にギュッと絡みつけてきた。
その拍子にペニスがビクンと跳ね上がる。
「さあ、もっと私に溺れてください……
そして香織の名前を呼んでくれても気にしませんから」
「ま、まって! このまま、入っちゃ……
「うふっ、たっぷり可愛がってあげます♪ ユウマ様」
その直後、ヌチュ……という音がして、俺はルルカに飲み込まれる。
腰の位置だけ調整して、お腹に張り付いたヌルヌルのペニスを膣内へと導いたのだ……
(ああああああ、この感覚! たまらないいいいい!)
なめらかなサキュバスの肌を滑り落ち、先端が熱々の肉襞にキスされた瞬間に俺は射精しかけてしまう。
だがお構い無しで肉棒への侵食は続けられる。
とろけるような熱い肉襞が俺を歓待して、内部がさざなみのように蠢き出す。
「うあああああああああああ!! しまるうううううぅぅぅ!」
「私の膣内、病みつきになってしまいそうでしょう? さあ――……」
ルルカに抱かれ、俺の悩みごとは快感で塗りつぶされた。
背中と腰をしっかりと抱きしめられ、最小限の腰の動きだけで精を吸い出される。
射精中も貪欲にサキュバスの膣内は俺自身を揉みしだき、萎えることを許さなかった。
俺の意識はルルカが放つ桃色の香気に包まれ、甘く絆されてゆく……
◆
「少しは気が紛れたか」
「ぅなっ!!」
聞き慣れたリリスの声で、俺は反射的に飛び起きた。
ここはどこだ……?
白とピンクの天井、おそらくルルカの居室。
俺はベッドに寝かされているが、身動きが取れない。
指一本動かすのも面倒なほど徹底的に精液を搾り尽くされているようだ。
まだ腰のあたりがジンジンしてる……
だが肉体的な刺激よりも、頭の中に響くリリスの声が気になった。
「ルルカはどこだ? それになぜ俺の意識に……」
「ああ、ルルカはそなたを寝かしつけてから任務に戻った。そして隠さずとも良い。いつものユウマらしからぬ乱れっぷり……遠くにいても伝わってきた」
どうやら俺とルルカの行為はリリスに筒抜けだったようだ。
「覗きとはいい趣味だな」
「それは違う。ルルカからの報告があった。人間界で何かあったのじゃろ?」
リリスは穏やかな口調で尋ねてきた。
俺の悩みもお見通しってわけか……そしてそれがルルカにもバレていた、と。
少々気になるところはあるが、俺はリリスに人間界での出来事を報告した。
幼馴染の志穂や、妹の結菜に事情が伝わっていたこと。
さらにルルカと魂をシェアしている浅乃香織からは、悲しみの都へとどまるように進言されたこと。
その結果、自分の存在意義が揺らいだので、こちらへ戻ってきた瞬間にルルカを抱いてしまったこと。
「なるほど、な……クックック」
俺の言葉をすべて聞き終えてから、リリスは短くそういった。
「なぜ笑っている」
「ぬ? 妾は今笑っていたか? そうかそうか」
「てめぇ……」
思わず俺は舌打ちをした。
話をはぐらかされたことへの怒りというよりは、照れくささが勝っている。
こんなやつに話すんじゃなかったと言いかけた瞬間、リリスがいつになく優しい声で語りかけてきた。
「蔑んだわけでも嘲るつもりでもなかった。純粋に嬉しかったんじゃよ」
「は!? 何がだよ!!」
「そなたに恋をしているルルカのことじゃ」
ルルカが俺に?
そう言われて何故か、少しだけ嬉しく感じてしまった。
だけど頭の中でその感情を打ち消す何かが湧き上がる。
サキュバスと人間、その種族の違い。
そしてなによりも……
「バカな……サキュバスが恋なんてするわけがない!」
そう思い込みたかった。
ルルカのことが嫌いなわけではなく、浅乃さんへの思いが消えてしまいそうな気がしたから。
「本当にそう思っているのか?」
「え……」
「ユウマよ。気づいていおるのじゃろ、なんとなく」
リリスの声はあくまでも穏やかで優しい。
それなのになぜか俺一人だけが怯えていた。
返す言葉を失って下を向く俺にリリスは続ける。
「ルルカはすでに覚醒しておるよ」
「え!?」
「次期女王としての資質、悲しみを感じ取ることについて……しっかり自分なりに学習してきたようじゃ」
「なぜ、そんなことが……」
「まぎれもなくそなたの影響じゃよ、ユウマ」
リリスは断定的にそう言った。
俺と交わったことでルルカは人の気持ちを理解したと言う。
そして浅乃さんとソウルエクスチェンジしたことや、俺の知らないところでのルルカと浅乃さんとの対話が一層それを加速させた。
「でもさっきは……」
「感情を読めない、心の動きがわからないふりをしていたのはユウマへの気遣いじゃ」
「おれのため?」
「そう、大切な決断を自分が愛した人に冷静に選んでほしいと願っている。それは理解してやってほしい」
うっすらと感じていたことが女王の口から語られたことで、俺は重い責任を背負わされたような気になった。
これで言い訳ができなくなったと言い換えてもいい。
ルルカは悪くない、もちろん俺だって悪くない。
でも目覚めてしまったんだ。
封印されていた色んな感情が、ルルカの中に。
「さて、ここで一番肝心なのはユウマ……そなたの気持ちじゃ」
「お、俺の……気持ち……」
「実際どうなんじゃ? ルルカと香織、どちらを選ぶのか」
完全に俺のターン、なのだ。
意思決定のすべてが委ねられた状況。
リリスの涼しげな声が頭に何度もこだまのように響く。
香織さんを選ぶなら俺はここにいるべきではないし、ルルカを選ぶなら人間を捨てる覚悟を決めねばなるまい。
「俺は――」
選択肢
1・このままルルカを選ぶ
2・人間界に戻って香織を選ぶ
3・どちらも選べない
(2019.07.08 更新部分)
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