『スライムバスター3 ~境界線からの使者~』
「信じられません……あなたみたいな野蛮人が私の姉だなんて」
睨みつけながらミルティーユがつぶやいた。
負けずにライムも言い返す。
「それはこっちのセリフよ妹! ろくに挨拶無しで襲い掛かってくるなんて、年上に対する敬意とかアンタには無いわけ?」
「ふん……ほんの少し早く生まれてきただけで偉そうにさえずらないで頂きたいですわ! それよりもやっと出会えた可愛い妹に対して全力で殴り返してくるなんて、お姉さまこそ……少し、いいえずいぶん異常じゃないかしら」
ミルティーユは防御態勢を解いて、拳を構えて前傾した。
ライムに向かって今にも飛びかかりそうな態勢。
「仕方ないでしょ。いきなり現れた自分そっくりの妹なんだからッ!」
「そうですね。お互いの時間を埋めるには――」
氷のオーラを纏ったミルティーユが飛びかかると同時に、ライムも地面を蹴る。
「「全力でぶつかるしかないじゃない!!」」
ライムの拳が先にミルティーユにヒットする。
しかし打撃を受けた場所が焼けただれてしまうことはなく、逆に氷に侵食されそうになる。
慌てて腕を引いたライムのボディに蹴りを入れたミルティーユだったが、今度はその足をライムにキャッチされてしまう。
「離しなさいっ!」
「却下。このまま燃やすわ」
瞬間、ライムの生み出す炎が二人を包みこむ。
「きゃああああああああっ!!」
ライムに掴まれた脚を支点にして、ミルティーユはあいていた脚で強烈な蹴りを放った。
「ぐっ……!」
これにはさすがにライムもたまらず、彼女を解放した。
時間にすればほんの数秒。しかし炎と氷の衝突のおかげで周囲に濃霧が立ち込めていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
がっくりと膝を落とし、先に攻撃の手を止めたのはミルティーユだった。
「あら、もう息切れしちゃうんだ? たいしたことないわね」
「さすがはお姉さまですね。ご自分が追い詰められたことにも気づかないなんて」
肩で息をしながらミルティーユが言葉を返す。
その瞳には強い闘志が窺える。
「ん~? 今のはどこからどこまでが負け惜しみなのかしら」
「ふん……すぐに終わらせてあげますわ。エクスチェンジ……ライムを捕まえなさい!」
ミルティーユが叫ぶ。
同時に、ウィルの目の前にいたはずの分身体がライムの目の前に現れた。
逆にミルティーユは分身体と場所を入れ替え、ウィルの目の前に瞬間移動していた。
『承知しました……』
うっすらと笑みを浮かべた半透明の分身は、無造作にライムに絡みついてきた。
振り解こうとしたライムだが、今度は何故か力が入らない。
「くっ……! 何よこれええええ!」
苦悶の表情のライムに遠くからミルティーユの声が届く。
「その子は炎の力を吸収してくれますわ。たっぷり遊んでもらってね、お姉さま」
ミルティーユは不敵に笑いながらウィルのほうへと向き直る。
意外なことにその表情はとても柔らかで、しかも彼に向かって両手を広げて戦意がないことをアピールし始めた。
「やっとふたりきりですね……ライムの想い人ウィル。あなたとは、ずっとお話したかった」
「えっ!?」
「私の、ミルの話を聞いて欲しいのです。ライムと同じ、ううんもっと……あなたをお慕いしていました」
(お慕いしてましたって……キミは僕と話したこともないでしょう!?)
しかし彼女は真剣そのもの。
それもそのはず、テイアラの残像思念の中で彼に恋をしてしまったのだから。
そして初めて間近でミルのことを見たウィルは思わず息を呑んだ。
まるでライムと同じ美しい顔立ち。
髪の色とヘアスタイルこそ違うものの、双子というだけあってミルは姉にそっくりだった。
可憐な雪の精を思わせるような衣装や上品な言葉遣い、そして身にまとう氷の魔力はどこか自分に通じるものがある気がした。
ウィルは戸惑いを隠せない。そんな美女が自分に対して切ない声で求愛しているのだから。
(選択肢)
1・ライムを救出する!
2・ミルの話を聞く
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