『美優先生と僕の特別授業』
もうすぐ夏本番。梅雨が明ければ本格的な暑い夏の戦いが始まる。
受験生にとってはこれからが勉強のシーズンである。
……という、一年中使えそうな常套句を真に受ける学生は昨今少ないと思われるが、生真面目な本作の主人公である小河橙矢(おがわとうや)においては効果てきめんな言葉である。
進学に向けて塾へ通う学生、自主的に勉強する学生、色々なタイプがある中で橙矢は教育環境に比較的恵まれていた。
両親は教育熱心だし、彼自身の素直さもあって成績は堅調。
そんな彼を影で支えていたのが家庭教師の存在だった。
近所の国立大学に通う学生・尾乃崎美優(おのさきみゆ)の丁寧な指導を受けた橙矢に勉強面での不安はない。
前述したとおり成績は決して悪くない。
しかし美優は悩ましげな表情で彼が提出した中間テストの結果を見つめていた。
「どうしてこんなボーナス問題を間違えちゃうかなぁ……!」
普段は穏やかな彼女の表情が優れない。
わずかに眉間にシワが寄っている。
それでも彼には全く関係なかった。
うーん、と低い声でつぶやく美優の表情に橙矢は見惚れていた。
(美優先生、今日もきれいだなぁ……)
肩より少しだけ短いミディアムヘアの隙間から覗く白い肌。
見え隠れする耳や、首筋から肩のラインが色っぽくてたまらない。
思春期の橙矢にとって美優の全てが刺激的だった。
彼女への思いを初恋と呼ぶべきかもしれないと橙矢は考えている。
初めて両親に美優を紹介された時からその気持に変化はない。
思わず触れたくなるツヤツヤした髪も、大きくてクリクリした瞳も、そして真面目そうな口調も、全てが自分好みだった。
美優は決して橙矢を子供扱いせず、一個の人格として扱ってくれた。
自分に優しく接してくれる年上の女性に、健全な男子が好意を持たないはずがない。
美優は清楚でありながらどこか色っぽく見える服装を好む。
おかげで橙矢は毎回彼女のファッションコーデにドキドキさせられっぱなしだった。
着る服によっては胸の大きさがかなり強調されたものになり、美優のふっくらしたバストは彼にとって目の毒だが楽しみで仕方ないものだった。
(将来こんな女性とお付き合いしたいな……)
ずっと横顔ばかり見ているのも恥ずかしかったので、なにげなく視線を落とす。
美優のほっそりした美脚が目に入る。
ただでさえ美しい脚がストッキングによって見事なラインを描いていた。
キュッと締まった足首も美優のチャームポイントだと橙矢は認識していた。
今日みたいなミニスカートを履いていると特にそう感じる。
同級生の女子など美優と比べものにならない。
さて、今日の美優は淡いグリーンのニットと、デニムのミニスカートを履いていた。
夏らしい爽やかな装いと言えるが、橙矢にとってはいつもどおり魅力的なので詳細は気にしない。
控えめに開いた胸元と、脚線美にドキドキさせられながらこの後は予習済みの勉強をするだけだ。
もはや近くに彼女が居るだけでいいのだ。満足なのだ。
だが美優はテストの結果について納得がいかないらしく、橙矢のほうに体を向けた。
「ここと、この問題、橙矢くんはテスト前にできてたよね」
「あ、はい」
「何かあったの? 教えてほしいんだけど」
落胆以上に、静かな怒りを燃やしている美優を感じて橙矢は我に返る。
怒った表情の美優はなかなか迫力がある。
緩みかけた表情をキリリと直し、押し黙った。
「いいえ別に。たまたま忘れちゃっただけです」
「嘘。キミがそういう子じゃないってことはよく知ってるよ。先生に、私にも言えないこと?」
「……ぅ」
上目遣いで美優が彼を覗き込んでくる。
身長差は殆どないはずなのに、やはり年上のせいなのかこういうときは威圧感がある。
「橙矢くんが心を開いてくれないと私、本当に困る」
「え……」
「キミの考えてることが知りたいの」
その眼差しから伝わってくるものがある。
美優は本気で自分を心配してくれてる。
しかし橙矢は自分の気持ちを隠そうとしている。
嬉しさと同時に申し訳ない気持ちが膨らんでくる。
「美優先生、ごめんなさい」
「やっぱり。なにか悩んでいたのね」
「……」
「もう謝らなくていいよ。全部私のせいなんだから」
小さくため息をつく美優を横目で見ながら橙矢は後悔していた。
点を取れなかった理由は、たしかにあるのだ。
でもそれは美優のせいではない。
美優に大きく関係しているけれど自分自身の問題だ。
(僕は、不純だ……先生は一生懸命教えてくれてるのに)
自己嫌悪。それと相反する彼女への恋心。
橙矢にとってそれらは等価値だった。
素直に思いを彼女に伝えたらどうなるだろう。
最悪、嫌われてしまうかもしれない。
受験生のくせに余計なことを、と呆れられてしまうかもしれない。
(僕のせいで先生を悩ませるのは望むことではない……!)
橙矢は悩んだ。
そして気づいたときには口が勝手に動きだしていた。
「あ、ええっ、と……」
「橙矢くん?」
彼女の心配そうな声が橙矢を後押しする。
気づけば彼女の手が、そっと彼の手に重ねられていた。
「取れなかったんじゃなくて、取らなかった……です」
「えっ、ど、どうしてなの?」
「それは……あの、怒らないで聞いてもらえますか?」
「うん、教えて」
「僕が一位になったら、せ、先生がいなくなっちゃう……」
橙矢はそこで言葉を切った。
いったん口を開いてしまえば、流れるように理由を語ることはできた。
でもここまでだ。
全部言わないのは自分でも卑怯だと思う。
さすがに恥ずかしくて言葉が出にくくなった。
「私がいなくなるってどういう……」
「先生ぇ……」
「ゆっくりでいいから話して。私はいつでもキミの味方だから」
美優の両手がそっと肩に置かれた。
少しの重さとぬくもりが伝わってきた。
(先生と、触れ合ってるんだ……)
落ち着きを取り戻した橙矢がポツリポツリと語りだす。
先週、美優が両親と話している内容を盗み聞きしてしまったこと。
自分を学年一位にすることで特別報酬が出ること。
学園内テストでオール満点を取らせたなら美優の役目は終了となること。
「僕、先生がいなくなるのは嫌だ……」
「まさか私と離れるのが嫌だからわざと間違えたということ?」
橙矢は小さく頷いた。胸につかえていたものが取れたような安堵感もある。
だが彼と対照的に美優は顔色が悪くなった。
「まったく、どうかしてるわ!」
顔を背け、美優は右手を自分の頭に当てて黙り込む。
まるで誰かに責められているような表情だ。
それが何なのかは橙矢には理解できなかったが。
「橙矢くん、キミは目標の大学に入るために頑張ってるんだよね」
「はい」
「私はそれをお手伝いするためにここに居るんだよ」
涙目の美優に正面から見つめられた橙矢は胸が締め付けられる思いだった。
(先生を泣かせたのは……僕、だよね)
大好きな女性の涙を見て、彼はようやく自分のしてしまったことに気づいた。
しかし美優は橙矢を責めなかった。
じっと目を見つめて、何も言わずに手を握ってくれた。
「目先の小さな事にこだわっちゃダメよ」
「で、でもっ、僕にとって、美優先生は目先の小さなことじゃないっ」
その勢いに美優も思わずビクッとしてしまう。
いつもは素直で冷静な彼が感情的に取り乱している。
それも彼女への思いが原因で。
(私、どうしたらいいの……彼の気持ちは、女としては嬉しいけど家庭教師としては抑えなきゃいけない思いだから)
美優は今度こそ戸惑いを隠せなくなった。
そこへ畳み掛けるように橙矢が胸中を打ち明けた。
「美優先生! 僕、ずっと先生のこと――」
しかし美優は強引に橙矢の言葉を遮った。
真っ白な腕が彼の顔を抱きしめて、引き寄せる。
「それ以上、何も言わないで」
ぎゅ……
美優に抱きしめられた。
普段感じている甘い香りが一気に強くなった。
橙矢は突然の出来事に身動きができなくなる。
ひたすら感じる美優の柔らかさに身を任せるのが精一杯だった。
「こうしてるだけでキミの気持ちが伝わってくるわ」
「ううぅぅ……」
ぎゅううぅぅっ
更に強く抱きしめられて、橙矢は少し呼吸が苦しくなる。
だがそれはすぐに収まった。美優が腕の力を緩めたからだ。
「今から先生が、ううん……私がするのは『沈黙』の特別授業。キミのご両親に内緒にできる?」
抱きしめられたまま、橙矢は突然背筋がゾクゾクッと震えるのを感じた。
美優の指先が彼の背中に触れたのだ。
しかも一本指で、背骨のラインをツウゥゥ……となぞるように。
「テストで手を抜くなんて許されないのよ?」
「ごめん、なさい……」
「私がキミの集中力を高めてあげる」
密着されたまま感じたのは彼女の声、髪の香り、体の柔らかさ、それに彼自身の内側からこみ上げてくる興奮だった。
(み、美優先生に抱きしめられてる……動けないけど、気持ちいい……)
一秒ごとに彼の意識が美優に色付けされていくみたいだった。
その間もずっと彼女は指先で彼の体を弄んでいる。
「何をされても、声を出しちゃダメだよ。少しでも漏らしたらそこで終わりだから」
抱きしめられた腕の中で橙矢は何度も頷いた。
このドキドキ感を手放したくないと彼は願っていた。
そのために、美優の特別授業に橙矢は耐えるしかないのだ。
「私のことを気にしてわざと一位を逃すなんて、家庭教師としては屈辱よ」
美優の口調は怒っているが穏やかだった。
密着した状態から、どちらからともなく離れる。
橙矢の目の前にいたのは怒りの形相ではなく、少し頬を赤く染めた美優の顔だった。
(美優先生がかわいい……見たことない表情だ)
少し視線をさまよわせながら、自分を見てくる美優の様子に興奮してしまう。
橙矢は魅了されたように動けなくなった。
そんな彼に向かって美優がそっと指先を伸ばす。
「本当にありえない……
二度と、わざと間違えるなんて事ができないようにしてあげる」
プチ……
ゆっくりと橙矢の服が脱がされていく。
シャツのボタンが外され、ベルトまで緩められてしまう。
年上とは言え女性にリードされるのが恥ずかしくてたまらなかった。
「あ……!」
「くすぐったい? ふふ……」
美優の指が素肌に触れた。それだけで橙矢は喘ぎかけてしまう。
(こらえなきゃ、おわっちゃう……!)
白魚のような指、というべきだろう。
そっと触れられているだけで魂が抜け落ちそうになるほど気持ちいい。
「橙矢くん、ときどき私の指を見てたもんね」
美優はほほえみながら、橙矢の肌に指先をすべらせるようになで始めた。
(せ、先生の指が気持ちよすぎて……!)
細い指先が下から上へと彼の首筋をなで上げ、顎のあたりをくすぐる。
「こんな風にされたかったんじゃないの」
(ちがう、ぼ、ぼくはーーーーっ!)
「そうでしょ? エッチな橙矢くん♪」
橙矢はすでに声を出すことに堪えきれなくなっていた。
巧みな指使いのせいで自然と声が漏れてしまう。
美優もそれをわざと無視しているようだ。
「首から上を優しく触られただけでビンビンじゃない」
十本の指が彼の耳たぶや首筋、それに肩口までを柔らかいタッチで責め始めた。
それは到底思春期の彼に耐えきれるものではなかった。
橙矢は身悶えしてなんとか逃れようとしているが、美優はそれを許さない。
すっと立ち上がり、彼に背中を向けながら彼が座っている椅子に腰を下ろす。
同じ方向を見ながら座るような体勢だ。
そこから美優は体を捻りながら橙矢の顔を優しく抱きしめる。
(おしり、すごくやわらかい……美優先生を感じる、うううぅぅぅ!)
その密着感はすぐに彼の体に影響を及ぼした。
すでに殻をむかれたゆで卵みたいになっている橙矢の皮膚は敏感で、美優から与えられる刺激は容赦なく彼の性感を刺激した。
しかも美優は意地悪なことに、腰をわずかに浮き沈みさせて彼の股間をやんわりと甘やかしていた。
「橙矢くぅん……」
「う、ああっ、先生ッ」
「いいかげん、私をスカート越しに犯すのやめてくれないかな?」
ちゅ……
美優の唇が彼の額に軽くキスをした。
唇が触れたところからじわじわと甘い波が染み込んでくる。
「キス、されちゃったね?」
「あ、ああぁぁ……!」
指先で愛撫されながら股間を柔らかなお尻で責められ、さらに額にキスをされた。
橙矢にとって人生初の三点責め。
(全身で先生を感じる……おかしくなりそうだ……)
美優の大胆な振る舞いに戸惑う暇も与えられず、橙矢は打ち寄せる快感の波に身を委ねるだけだった。
彼女の美しい唇がそっと近づいてくる。
「キミのせいで濡れちゃうじゃない。責任とってもらえるのかしら」
「ご、ごめんなさい……」
濡れちゃう、の意味がわからないまま橙矢は謝ってしまう。
彼女を困らせたくない一心だった。
咎めるような美優の言葉に、橙矢は申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
「橙矢クン、童貞だよね? 恥ずかしがらずに教えて」
美優は泣き出しそうな彼の表情に嗜虐心を刺激され、自分からバストを押し当てながら妖しくささやく。
彼女の腕の中で少年が小さく震えながら頷いた。
「うん、ありがと……予想通りだよ」
ちゅ……
耳元を舐めるようなキスだった。
唇が這う感触に橙矢は身悶えするが抜け出せない。
美優はその行為を何度か繰り返してから彼に問いかける。
「私が貰ってもいいかな?」
「え……な、何を……」
甘い囁きで耳を責められ、言葉で心を溶かされながら橙矢が問い返す。
本当は彼女の真意に気づいている。
故にこれは確認作業だ。
美優もそれを知ってか、ストレートな言葉を選んだ。
「キミのはじめて。大切な思い出。一生残るかもしれない記憶。」
「あ……うああぁぁっ!」
「泣くほど嫌なの? それともぉ……」
クスッ、と笑いながらそこで言葉を止めた。
美優の目に映るのは橙矢が顔を真っ赤にして照れている姿。
(わざわざ聞くまでもないんだけど。少しは自信をつけさせてもらおうかなーって♪)
本音を言えば、美優は自分の年齢を気にしていた。
大人同士ならいざしらず相手はまだ思春期の少年だ。
美優と同世代の女性にしてみれば禁断の果実と言っていいだろう。
しかし彼女は橙矢と出会ってからずっとこの機会を狙っていたのだ。
そしてまもなく自分の手に落ちる。
「せ、先生ぇ……」
瀬戸際で迷っている彼の気持ちが手にとるように伝わってくる。
だから、そっと背中を押してやればいい。
「橙矢くんは私にどんな『はじめて』をされたい?」
トドメとなる一言。
妖しげに微笑む美優を見ながら理性が崩れていくのを橙矢は感じていた。
憧れの女性が自分の言葉を待っている。
橙矢が口にした言葉は――、
(選択肢)
1・「美優先生とキスをして、たくさん撫でられたい」
2・「美優先生に初めてを奪って欲しい」
3・「美優先生の胸を触らせて欲しい」
4・「美優先生の足で、して欲しい」