森の仲間たちin新撰組

「狼と赤頭巾ちゃん」



鬼の副長と呼ばれる土方さんは、鬼ではなく狼です。
まぁ、狼も鬼と同じように、怖い存在といえば言えなくもないですが。
しかし、そんな土方さんにも、すっごく甘い相手が居ます。
それは端で見ていても、はっきりとわかるほどの依怙贔屓の甘さです。
それもそのはず、その相手・総司は、土方さんが手塩にかけて育てた相手だからです。
これはまったく誇張ではないのです。
実は土方さんがまだ幼い頃、道端でころりんと転がっていた卵を拾い、お腹が空いていたにもかかわらず、食べもせずにあっためて孵してやったのです。
自分でも不思議でしたが、卵で食べるより孵して大きくなってから食べた方が食べ応えがあるんだと、自分に言い聞かせていたのです。
その卵ですが、土方さんには何の卵だかわかりません。
だから、孵るのをちょっとワクワクして待ちました。
土方さんもまだ子供ですからね、この時は。
温め始めて十数日、卵にぴしぴしとひびが入り始めました。
それに気づいた土方さんは、中から顔を出すのを、今か今かと卵に鼻をくっつけるようにして、待ち構えていました。
そして、卵がぱっかりと割れ、現れたのは鳥の雛でした。
まだ、羽も濡れた状態だし、お世辞にも可愛いとは言えない感じですが、土方さんを見詰める瞳はつぶらで、孵った途端食べようと思っていた土方さんの意思をくじくには十分でした。
それからというもの、インプリントとでも言おうか、宗ちゃんは土方さんを慕い、ちょこちょこと後を付いて回る始末。
こうなると無碍にもできません。
しかも、まだまだちっちゃくて、何の鳥なのかわかりません。
だから、何の鳥かわかるまで興味があるから、まだ食べないのだと自分自身を納得させていました。
土方さんの前や後ろを歩く宗ちゃんはちっちゃくて、踏んづけてしまいそうです。
仕方がなく――そう、あくまで仕方がなく、です――、土方さんは頭の上に乗っけて歩くことにしました。
土方さんが、宗ちゃんのぽわぽわの羽が可愛くてしょうがないのは、誰にも内緒です。
日増しに沖田は、可愛く大きくなっていきます。
それはそれは、食べ頃のようです。
ある日、とうとう土方さんは、食べなきゃ狼がすたるとばかりに、心を鬼にして――狼ですが――、食べる決心をしました。
大きく口を開け、宗ちゃんを食べようとしたまさにその時、あらあら不思議。
なんとしたことでしょう。
宗ちゃんの体が見る見るうちに変化していくではありませんか!
土方さんがあんぐりと口をあけたまま驚いてると、そこに現れたのは可愛らしい少年です。
これも、まったく別の意味で食べ頃のようです。
そんなわけで、土方さんは当初の予定とはまったく違う食べ方で、宗ちゃんを食べちゃいましたとさ。



あなたはさらに、誰に会いに行きますか?
      カバ     

歳さんの頭の上の総司が可愛いだろうなぁ、と書いた話です。



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