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えいやぽん

本日、無事に退院してきました。
バセドウ病治癒を目的とする甲状腺(亜)全摘手術というのが今回受けた手術です。
投薬治療1年でこれを選択するのは珍しいのですが(2年目に判断が多いみたいです)まあ、わずらわしいことは早めに済ませておこうかなあみたいな決断でした(笑)

甲状腺は2.5グラムまでちんまり小さくしていただいて、今のところ、大きな弊害も出ていない形です。


6人部屋に入院していたのですが、何か不安なことはありますか?と看護師さんに尋ねられて、みなさんに教えていただいています、と答えると、ああ、あの部屋はねえと言われるような明るい方々がそろった部屋で、とても運が良かったなあと思います。
はじめての手術でどきどきしていたのですが、手術室に入る前のベッドに載せられてぐるんぐるん通路を進む感じですとか(手術室が18室もあったようで)謎のオルゴールがかかっている待機部屋や、手術ベッドの上のランプや。
不思議と怖さなど感じることなく記憶にとどめることができました。


今は地震で多くの方が被害に遭われ、人命の救助、ライフラインの復旧、という最大にして最初の山場を越えなければならない段階ですが、いち早い復興を願うとともに、ちょうど手術中だった先生方は揺れに足を合わせながら執刀したなんていう話を聞かせてくれたり、看護師さんたちも身内や自身が地震に巻き込まれながらも、いつも通り入院患者の私たちを気づかってくれたことに、ただただ頭が下がり、感謝の思いでいっぱいです。


入院中は誰かと話しをする、ということの力を改めて感じましたです。
明るい病室でしたが大きな手術を控えた方も勿論いて、不安を吐き出す方に答えてあげたい気持ちはあるけどじぶんで手一杯、というのも正直なところであり。
私自身、心に余裕があるかといえばなくて、テレビ見たりするとぶわぶわ涙出ちゃう、な感じではあるので、防衛本能めいているのやもしれませんけども。

うそっぱちでも結果的に失敗でもいいや、明るい話題をひょいぽん、そろりぽん、えいやぽん、とする人がひとりぐらいいてもいいよね、と、思いましたです。
私、前向きに生きます。な気分に(笑)
そんな感じで今後もやっていけたらなあと思います。


最後になりましたが、メールやTwitter等にてお気づかくださった方、ありがとうございました。とても嬉しく、また励まされましたです。

サイト移転しました

サイトを移転しました。
リンク切れなど、おかしなところがあった場合、
遠慮なくご報告いただけますとありがたいです。

新しいサーバーは心機一転、別のところに変えてみました。
アップロード等は前のが早いようですが、サイト接続そのものは
平気だと思いますので、実生活が落ち着き次第、
もう少しましな更新履歴にしていけたらなあと思います。

移転について

お知らせの言葉を少しばかり訂正させていただきました。

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□お知らせ・改訂

当サイトはサーバー契約終了のため、
2011/03/31をもちまして、
いったん閉鎖いたしますが、その前までに
Top」ページにて
移転先をお知らせする予定です。

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お問い合わせやご意見をいただきまして、
お知らせの訂正をいたしました。
移転先はなるべく早く決定させて、
現ページが残っているあいだにご報告できればと思っております。
少なくとも今月中には移転先を確定させるつもりですので、
申し訳ありませんが今しばらくお待ち下さい。

閉鎖について

お問い合わせもいただきましたので、至急お知らせいたします。

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□お知らせ
 当サイトは2011/03/31をもちまして、いったん閉鎖します。
 サイト移転先はまだ決まっておりませんが、
 決まり次第、閉鎖消滅前のお知らせができればと考えております。

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 サーバーの更新時期に入りまして、改めて料金確認したら、
 現行のサーバー価格の安さにびっくりしまして…。
 サポートセンターに確認したところ、プラン変更はできないので
 新プランにするにはいったん解約、改めて新規契約するほかない、
 その方がお得だしサービスも充実してます、と。

 年契約をしていたため、解約するなら今しかない、
 値段の差を知ってしまったからには節約の虫がうずく、
 というわけで、…サーバーとの契約を解除することにいたしました。

 すぐ新プランを契約…という形にしても良かったのですが、
 オフでの引っ越しも間近に控えていることもあり、
 プロバイダ変更にともなうオプションでサーバースペースをもらう、
 無料のに切り替えてみる、等々、幾つか候補があるため、
 現段階の新プラン契約は見送らせていただきました。

 来月には引っ越しと、
 実はその直前にバセドウ病の甲状腺切除手術を予定しているという
 ばたばたっぷりなので、出来うる限り消滅前の移転を予定しておりますが
 多少伸びてしまう可能性もあります。

 
 直前のお知らせになってしまった上に、
 移転先がまだはっきりしていない状況で申し訳ありません。
 続きを載せていきたい気持ちはきっちりしっかりありますので、
 いましばらくお待ちいただければと思います。

 

秋の温度

少しずつ涼しくなってまいりました。
台風が来たあとからうっすら秋を感じてはいたのですが、きっとすぐに暑くなっちゃうんだよね、と疑っていました…。
まあ…じゅうぶん、30度越えなら暑いはずなんですが。
やはり朝晩の涼しさが秋らしく。

拍手メッセージありがとうございます。むしろ、のぞきにきてくれてありがとうな気持ちでいっぱいです。
下、返信。


 

暖かくなる感じとおっしゃっていただけて嬉しいです。お城…、調べながら行ってみたい…という気持ちいっぱいだったので、同じくお休みほしい…!とうなってしまっておりました(笑)
次回更新はさほど間を開けずに…ともくろんで?おりますので、またふらっと訪れていただければ嬉しいです。拍手メッセージありがとうございました…っ。

そろうっと…

andante -唄う花- 40話UP


こ、今度こそ、さ、再開するんだ。
ちまちまとでもUPしていくんだ…!orz

そんな感じですみません。でもやる気出していこう、と思います。
もう片方のお話は完璧放置ですみません。後の展開が決まってるのはむしろもう片方の方なんですが…。ううん…。

そういえば最近iPhoneを手に入れまして、自分のところを見てみにくいっ、とおののきました。でも今さらサイト改装なんて余力はなく…。せめて一頁の文章量を減らすべきか、でもあんまり少ないとPCで見るとつまらないし、など思ったり。
様子見ながら調整していきたいとは思っていますが、…iPhoneすごい、なんて便利!と毎日驚いていたりです。
今までが携帯電話は待ち受け専用、携帯サイトには殆ど繋ぎません、という状態だったせいもあり、このおもちゃに夢中、という感じになっております。林檎すごいです。


改めまして更新を待って下さった方、メッセージ等くださった方、ありがとうございます。お礼を申し上げます。そしてがんばります。

夏響く

職場からの帰り道、水音をたどって公園と噴水を発見しました。
週に1度しか立ち寄らない場所なのですが、なんともうれしく。
川とか湖とか水辺がとても好きです。水の奏でる音はなにゆえああまで心地よいのか、…。
まあ…、主に夏の涼しさを求めているんですけれども。

どうしてこのへや、こんなにむしあついの!
みたいな気分への逃避なのでした。


拍手、メッセージありがとうございます。返信不要の方もありがとうございますっ。
なんだかもったいないお言葉をいただいてしまって、うれしいやらありがたいやらで。
ゆるくでも長く続けていけるよう…がんばりますね。

以下返信です。


  

またまた気になるところですみません。あわわ。
なるべくきりよく、とは思っているのですが…。
ゆっくりな進行速度ではありますが、少しずつでも前に進んでいけたらなと。最近は世間的にも下火なサイト運営ではありますが、そちらはしぶとく続けていくつもりですので、よろしくお付き合いいただければうれしいです。
あたたかいお言葉、とても励まされました。ありがとうございます!


  

そのときは…

はやぶさあと48時間だなんて…信じられないです…。
そしてリアルタイムは無理…。

サイト更新へのご反応、ありがとうございます。
ぷかりとうかんできたり、しーんと静まりかえったりと定まらなくてすみません。
のんびり楽しくまいりたいと思っておりますので、気長に付き合っていただければ幸いです。でもさすがにもう少しがんばりたいと…。


以下拍手返信です。返信不要の方もありがとうございます…!


   

あたたかいお言葉ありがとうございます。もっと更新を続けてやれればと思いつつも、このようなゆっくり具合ですみません。息長く楽しく続けていけたらなと思っていますので、またのぞいていただけると嬉しいです。拍手、メッセージありがとうございました。

拍手御礼10

   内容:唄う花番外。
       蓮と父とがふたりで暮らしていた頃のお話です。


   

 火曜特価市!食パン69円(5枚切・6枚切)

 そんなちらしを見たなら、行かねばなるまい。
 幸いにもその日は午前中までで授業が終わるから、たとえ朝に売り切れてしまっても、午後の品だし時に間に合う。行きつけのスーパーだから、だいたいのタイムスケジュールというか、売れ行き具合とかは把握済みだ。
 ちょっと足を伸ばせばお買い得な商品がそろっておまけもつく商店街があるけど。
 おばちゃんごめん!今日はパンのためにスーパー行くよ。
 パン、ちょうど切れてたし、というのは言い訳で。
 お米があれば日々の生活は事足りる。オレにとってのパンはちょっと特別なものだ。
 別にパンが嫌いとかごはんが嫌だというわけじゃない。
 ふだんはやっぱりお米がいちばん。調節も効くしバリエーションも豊富だし、なんと言っても舌に合う。父さんもオレも断然ご飯派だから、お米を切らすなんてことはあり得ない。
 でもだからこそ、たまにはパンに憧れる。
 朝は専用のトースターで焼いた食パンにさっとバターをのせて、トマトとレタスのサラダとか、ハーブ入りのソーセージとか、エッグスタンドにゆで卵とかさ。そういう絵本があったんだ。大人の飲み物はコーヒーで、子どもはホットミルク。
 それをトオ兄たちに言ったら、翌朝そのまんま朝ご飯としてでてきたのは懐かしい思い出だ。なんと食パンにはうさぎが焼き付けてあって。うさぎの顔がおっきく入ったすごい可愛いやつ。あ、でも、コーヒーは限りなく牛乳で薄められたコーヒーだった。ホットミルクに蜂蜜を入れたのを夜に飲んだりするから、それと区別するためのコーヒー牛乳だったのだろう。
 とにかく。
 どうしてもってわけじゃないけど。明日はパン。パンごはんに決定。
 なんたって69円。すっごくお買い得。
 ついでにジャムも欲しいな。たまに使うだけなのに勿体ない気もするけど…瓶ジャムは保つもんな。マーガリンはあったし、たまごもある。きゅうりを足してサンドイッチとかもいいなぁ。


「親父、朝飯」
 まだ真新しい中学の制服の上からエプロンを着けて、トースターから出したばかりのパンをお皿に移す。
 予算の都合上、食卓に並んでいるのはキュウリとレタスのサラダ。ベーコン。ジャムは止めておいた。次いつパンが安いか分からないし、イチゴかマーマレードで悩んでさ。オレ、イチゴ派。父さんマーマレード派なんだ。
 ちょっと思っていたのと違う感じに仕上がったけれど、それでもパンごはんに変わりはない。
「お、めずらしいな」
「安かったんだ。なんと69円だぞ」
「ふくふくベーカリーは旨いけど、高いからってあんまり買わないもんな」
 父さんの言うとおり、商店街行きつけのパン屋は旨い。旨いんだけど毎日買うのはちょっと困るお値段で。それ相応ってやつだとは思うんだけどさ。でも、あんぱんとかすっごくいいんだ。遠くから買いに来る人もいるぐらい。
「うん、たまにはパンもいいし。…いただきます」
「いただきます」
 手を合わせてこんがりきれいに焼けたパンにかぶりつく。
 ふわぁと来る小麦粉の味っ。薄く塗ったマーガリンの心地よい匂い。
 歯ごたえはさくっ。
 喉ごしはもきゅもきゅ。
 ほんのり甘くて、それで…、………。
「んん?」
「…………」
「…………」
 どうしてだろう。ちょっぴりへん?
 いやいやまさか、うすうすとほのかに…、まずいような…。
 そんなたいそうな舌は持ち合わせてないし。青色斑のパンだって食える。…てきめんに腹を壊して父さんに叱られるけど。いや、青色斑と買ったばかりのパンを比べるのはちょっと。
「ふくふくベーカリーはすごいなぁ…」
 オレはぽつんと呟いて、楽しみにしていたパンを噛みしめる。
 おいしいゆえの高さもあるけれど、あり得ない安さにはそれ相応の理由があるんだなぁと、オレは知った。
 それを言ったら、そんなことはない、おいしいぞ、と父さんが付け加えた。自然と無口になったオレにそれ以上何を言ってもむだだと思ったのか、父さんの口数もだんだん減っていく。まあ、食事時には静かになりやすい家だけど。黙って朝食を終え、オレは洗いものを引き取った。
 まずかったからって残すことはしない。昼ご飯はサンドイッチがいいな、という父さんの誘いにオレは首を振った。残りの4枚はオレが責任を持って引き取る。
「お弁当用のごはんなら炊いてあるから」
「…無理するな?」
「してないよ」
 小さく笑って、仕事に出かける父さんを見送った。


 卵と砂糖、ちょっぴり牛乳でフレンチトースト。
 卵とマヨネーズでかんたん目玉焼きパン。
 卵と砂糖、牛乳を多めでマグカップにパンプディング。
 卵が多いのは、特売で多めに卵を買っていたから。
 甘いのが多めのはその方が好きだから。

「最後の1枚…どうしよう……」

 袋に入ったままのパンを眺めながら、食卓に頬杖をついて思い悩む。
 正直、おいしくないことぐらい我慢すればいい。
 しょっちゅう体調を悪くして、おいしいはずのものもおいしくなくなることも多いから、多少まずくたって食べられるだけ良いはずなのだ。
 口に入れて、噛んで、飲み込む。じんわりと広がる味と舌触りと、病み上がりのときは特に食べられることだけがうれしくて、食べるもの、口にするものぜんぶがいとおしくなった。
 ただだからこそ、おいしいものを食べたいという気持ちもある。まずいものを作ろうと思って台所には立たないし、どうにか片付けようとつくった最初のフレンチトーストが思いの外おいしくできたから、できれば最後までおいしく終わらせたかった。
 けれど、普段パンを食べ慣れないせいもあって、ちっとも良い案がうかばない。
 手持ちの料理の本にはパンを使った料理は載ってなくて、どんなふうに食べているのか聞ける相手もいなかった。
 こんなことなら5枚切りにすれば良かった。でも5枚だと2人で割り切れない。

 悩んでいるうちにパンを買って3日目の朝陽が昇りきる。
 今日は日曜で家にはオレしかいない。父さんは仕事だ。
 一時期残業も休日出勤もまったくしなかった父さんは、オレが中学校に上がってから残業をする日が増えた。たまたま忙しい時期なんだよ、と言っていたけれど、小さな子どもがいるからって無理していたのだと思う。
 桜朱恩を卒業した今はどんなことでも父さんとふたりでがんばっていかなくちゃいけないし、オレはきちんと家計をやりくりして、なるべく父さんの負担を減らすようにして、学校のこととかで悩むことがあっても、ナギ姉たちに迷惑をかけないようにして、やれるだけやっていかなくちゃいけない。
 少なくともこの頃は、そういきごんでいた。

 食卓に頬杖をついたままうつらうつらしていたオレは鳴り響く電話の音に飛び起きた。りりりりん、という古い電話機特有のはじけるような音に耳がわななく。
「もしもし」
「俺だ」
「親父?」
 珍しいなと思ったら、なんと忘れ物をしたようだった。言われるまま部屋をのぞくと、いかにもな茶封筒が置いてある。
「悪いが、どうしても必要でな。持ってきれるとありがたい」
「うっかりしてるなー。いいよ、どこ?」
 言われた場所は商店街の裏側。今日は仕事の都合でそこへ行っているらしい。あんまり行かないところだけど、聞けばなんとなく分かる。
 憎まれ口をちょっと叩いてから、軽く請け負った。父さんの忘れ物なんか1度も届けたことがない。急いで届けなくちゃと意気込んだのを見透かしたみたいに、のんびり来るようにと付け加えられた。
 外を見るといつのまにか雨が降り出していて、茶封筒を厳重にビニールで包んでから肩掛け鞄につめこみ、その上からレインコートを着る。まるっと大きな釦がついたお気に入りのレインコートに長ぐつを履いて、家の戸締まりをした。
 空の中から真っ直ぐに落ちてくるこまかな雨の中を歩いて40分。忘れ物を渡すと父さんは嬉しげに口もとをつりあげ、どことなくほっとした感じもある。すっかり濡れていた顔を父さんのタオルで拭われて、休んでいくかと言われたけど、大丈夫だと拒んだ。
 見知らぬ大人たちに囲まれた父さんはいつもと少し違って見えて驚く。わずかな気後れを覚えて、たとえ人見知りしない質とはいえ図々しく長居はできなかった。
「最初の道を右に曲がると近道になる」
 どの道を通ってきたんだ?と聞いてきた父さんに答えると、オレでも分かるように近道を教えられた。オレの行動範囲がそれほど広くないって父さんにもばれているから、すごく丁寧に道を辿って言葉にしてくれる。地図で書かれると余計分からないこともあるけど、言葉は覚えられる。
「うん、分かった。じゃあね」
「気をつけて帰れよ」
 灰色の雲が太陽を隠して、まだ昼すぎだというのに辺りは薄暗い。
 近道だという通りは今まで1度も歩いたことがなく、軒を連ねている小さな商店も閉まっているものが多いせいか、どことなく寂しかった。自然と速まる足を途切れがちな息が阻む。
 額ににじむ汗を手の甲で拭って、シャッターが降りた店先の端に逃れた。雨脚が少しだけつよまる。
 傘も持ってくれば良かった。少しだけ後悔が過ぎったけれど、これぐらいの雨ならすぐに止むかもしれない。
 そうやって雨宿りをしていると、弾んだ鼓動がおさまるのと一緒に血の気も戻ってくる。それにほっとしながら軒先から空を見上げた。
「雨、やまないね」
「…っ」
「あらら、ごめん。驚かせた?」
 いったいいつのまにそばに来ていたのか、店番らしいこざっぱりとしたエプロン姿が目に入る。
 長めの髪を後ろでひとつにまとめた女の人だ。
「ちょっとごめんね」
 後ろの方でかがんだと思ったのも一瞬、勢いよくシャッターがあげられた。シャッターがあげられるところを初めて間近で見て、そのけたたましい音にあっけにとられる。これ、旧型で重いんだ、とナギ姉より幾らか年上だろう女の人は言った。
 状況について行けないままのオレの顔をぐっとのぞきこんで眉を寄せる。
「君、ちょっと顔青いなぁ。店の中で休んで行きなよ」
「え、や、…平気です」
「そ?じゃあこれ持って」
 ぽんぽん運ばれる会話について行けない。なんの店だろうとぼんやり視線をさまよわせていたオレの手のひらに、何か冷たいものが触れる。
「瓶…?」
「蜂蜜さ。うちの人、転地養蜂しててね。花を追いかけてどこまでも行っちゃう」
「…蜂蜜…?」
 戸惑っているあいだにてきぱきと店支度を続けるおねえさんがにっかりと笑みをうかべた。
「料理に混ぜてよし、飲み物にもよく合う、もちろんパンにつけても良い百花蜂蜜だよ。サービスだから遠慮なく持って帰ってよし。あ、雨が小降りになってきた。帰るなら今だね」
 パンに…つけても合う…?
 そうか、蜂蜜なら…っ。
「あっ、ありがとう!おねえさんっ」
「またのご来店、お待ちしてます」
 ちょっと気取って言うのが妙におかしい。つられて笑みをうかべてから、蜂蜜の入った小瓶を持ってオレは最後のパンのもとへと帰った。
 パンにはジャムを塗るものだと思っていたけれど、蜂蜜だって合う。そう気づくと居ても立ってもいられず、さっそくもらったばかりの蜂蜜をひとさじ、パンの上に塗りつけた。
「おいしいっ」
 信じられないぐらいおいしかった。
 パンには蜂蜜が合う。
 そして蜂蜜にはパンもなければ。

「ごちそうさまでした」

 仕事から帰ってきた父さんと一緒に残していた切れ端を食べる。
 そろって頬をゆるめ、パンと蜂蜜を楽しんだ。

「たまにはパンもいいな」
「うん」


 あれ以降、69円の食パンを食べる機会はなかったけれど、オレは今でもそのパンのことを思い出す。
 もちろん、あの店の蜂蜜が家の棚に常備され、欠かせないものになったことは言うまでもない。

ゆるゆると

andante -唄う花- 39話UP


えー…だいぶ期間があきましたが、更新しました。……すみません。
新しいお仕事にもだいぶ慣れてまいりましたので、不定期ながらも定期的に動いていけるようにしていきたいと思います。

Twitterばっかりやっていると、あれですね。ブログというか、こんなふうに長く文章をつづるのが、ちょっと違和感。…………。ここ廃止してもいいかな、とかちらっと思いましたが、どうなのでしょう。でもあちらとこちらは、まるで趣が違うので、少々壊れ…でなく、砕け気味の向こうはそのまま、こちらもそのまま、で行こうかと思います。

停止している間、拍手などありがとうございました。とても励みになっております。お礼は更新で返していけるよう、ゆるゆるとがんばっていこうと思います。


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拍手御礼、追加しました。縁の下の一コマです。